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研究員の呟き

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北朝鮮は本当に瀬戸際外交をしているのか?2014/08/15  読むための所要時間:約 4分14秒

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北朝鮮の行動を瀬戸際外交とする議論が行われて久しいですが、金正恩体制へと大幅に変わった現在でも、そう言えるのでしょうか?最新の事例を踏まえて考えてみます。

北朝鮮の行動を論じる際の説明として用いられるのが、瀬戸際外交です。瀬戸際外交とは、危険な行動を行い、その停止の見返りに対価を得るというもので、要するに対話の為に挑発をしているということで、本気で戦争をするつもりはないということを含む概念です。

確かに、これまでの北朝鮮は、核・弾道ミサイル・挑発行為というカードを綺麗に並べた上で交渉に入り、援助や譲歩を獲得するというパターンを繰り返してきたのは事実です。ただ、近年は非合理的な行動が目立ちます。

例えば、2012年2月にせっかく成立した米朝合意の直後の4月に、それを無視したミサイル発射を敢行し、その後も一貫してエスカレーションを続けています。これでは北朝鮮は見返りを得られず、一文の得にもなりません。そればかりか、交渉相手としての信頼性を失い、瀬戸際外交ができなくなります。しかも、北朝鮮はその後も一貫して、一時は対話を拒否していたとも言われます。

例を3つ上げましょう。

第1は、東アジア政策を担当した、米国のカート・キャンベル元国務次官補による「アメリカは、北朝鮮の前の指導部や、今の金正恩政権の指導部との対話に向けた努力をしていないという批判があるが、違う」「直接、対話をしようと努力してきたが、拒否されたのだ」との証言です。

第2は、北朝鮮が、 韓国の朴槿恵政権が、「先に対話、後に非核化」という対北政策を打ち出したその日に、軍のホットラインを遮断したことです

第3に、朴槿恵大統領は昨年3月20日、対話に応じない北朝鮮を説得するよう、中国(習近平主席)に電話で要請しました。

簡単に言えば、北朝鮮は十分にカードを用意し、しかも利益を得る段階だったにもかかわらず、それを破棄し、核やミサイル実験といった必要以上のカードを場に置き続け、米中韓からの対話の呼び掛けを拒否しているのです。今年に入っても、毎月のように、連続して短距離ミサイル等の発射を継続しています。

しかし、核やミサイルの発射には多きなコストがかかります。一説には、ミサイル発射には、発射だけでトウモロコシ250万トン分もの費用がかかる上に、そもそも北朝鮮には最大でも20数発程度のウランとプルトニウムしかありません。

そんな貴重な物資を何回も浪費して、わずかな見返りすら求めず、対話を拒否し、兵器開発にまい進する。これでは核やミサイルを手段とした「瀬戸際外交」ではなく、「戦争を辞さない安全保障政策」と言うべきでしょう。
こうした見解は特異なものではありません。例えば北朝鮮研究の権威であり、様々なメディアでもおなじみの宮本悟(聖学院大学特任命教授)は、「北朝鮮は様々な政府組織の集合体であって、一つのアクターとは限らない。その為、必ずしも合理的な行動を一貫して取り続ける存在ではない」と指摘しています。

私たちは、相手を合理的に行動する存在だと思いがちですが、その実、私たち自身の組織がそうであるように、非合理的な行動を取っていることはしばしばあります。瀬戸際外交のように見えるものが、本当にそれによる見返りが計算された瀬戸際外交であるかどうか、改めて考えてみるべきではないでしょうか。

 

参考文献
宮本悟「北朝鮮によるミサイル発射と日朝交渉の矛盾をどう解くか?」『synodos』2014年8月11日。
http://synodos.jp/international/10184

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執筆担当:研究員C
<プロフィール>都内某研究機関の研究員。安全保障研究を専門にやっています。過去には国際協力や防災等をテーマとする官庁からの委託調査も実施いたしました。最近は、混迷を深める国際情勢を眺めていることもあり、いろいろと呟いていきます。

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