いよいよマイナンバー制度が始まりました。防災とは直接の関係はないとも思われがちですが、マイナンバーはこれからの防災にとって多くの可能性と新たな課題をもたらすものです。今回は防災の観点からマイナンバーについて考えてみます。
知られているようにマイナンバーは、徴税と社会保障を 1 つにまとめていこうというものです。
もっとも税と社会保障の行政効率を高めるという観点からは、多くの課題が指摘され、むしろ、特に自治体からすれば非効率になるとも言われています。また現在は、個人情報保護や政府の国民管理などの点が注目されて、「マイナンバーがやってくる」などと、おどろおどろしい感じで週刊誌の表紙を飾ったりしています。私はこういう批判はそれほど的外れなものとは思いません。例えば自民党のマイナンバー担当が「国民の消費動向について、マイナンバーを使って把握してビッグデータとしてアベノミクスに活かしたい」などと発言するなど、国家による国民の管理という政府の意図は否定できません。そうはいってもこういう制度は、人々が徐々に慣れてしまい、最初のショックは案外に簡単に忘れられるものでもあります。
少し話がそれましたが、マイナンバーは社会保障制度を円滑に運用するために、様々な社会保障制度の対象となる人を特定し、そしてその情報をデータベース化するものです。社会保障とは、年金や医療保険など、国民の大多数が利用しているもののみならず、障害者や病人、高齢者などのいわゆる社会的弱者を対象とするものでもあります。
防災の観点からは一般に社会的弱者は、災害弱者と呼ばれます。
先日、利根川が氾濫し、多くの住民が避難を余儀なくされました。亡くなった方もおり、「事前に警報が出されれば逃げられたのに」という行政への批判がありました。しかし、警報が出されても逃げられない方がいます。例えば聴覚障害者の方は町内放送などによる避難警報を自分ではなかなか気づくことができませんし、寝たきり老人の方は聞こえても逃げられません。こうした方々、災害に対して脆弱な方々を防災の世界では、「災害時要援護者」と呼びます。読んで字のごとし、災害時に援護を必要とする方です。
原則論としては行政がこうした方々を特定・認定し、援護計画を立てるという形になっているのですが、これまでは中々進みませんでした。その理由は、個人情報保護法により、社会保障の対象となっている方の情報を同じ行政部局の防災担当が利用出来ないことがありました。記名など求められる際に「入手した個人情報は●●の目的以外には利用いたしません」という但し書きをよく目にすると思いますが、あの●●が社会保障の場合、防災目的には使えない、ということになるのです。
また、災害弱者の方々自身が、そのように認定されることに拒否反応を示されることも多くあります。実際問題として、災害弱者=社会的弱者の居住場所が漏れれば、窃盗や強盗、さらに振り込め詐欺など悪事を働く人間にとって使いやすいデータともなります。
こうしたことからなかなか災害弱者支援が進まなかったのですが、今回のマイナンバー制度の施行を受けて、防災の観点からこれを活用しようという議論が起こっています。どこに住む人がどのような避難行動の困難さをもっていて、それを踏まえるとどのような災害時の支援が必要なのか、避難方法や避難経路、支援者などの特定を容易にする制度でもあるということです。
もちろん個人情報保護という観点や、そもそも国がそこまで管理を強めること自体への批判は妥当です。しかし、今回のマイナンバー制度の導入をきっかけに、従来の制度の壁を乗り越えて社会的課題を解決する、建設的な活用が進むことを期待します。
---------------------------------
執筆担当:研究員B
<プロフィール>危機管理を専門とするコンサルタントとして、民間企業に対するアドバイザリーやコンサルティングを手掛ける傍ら、官公庁の委託調査や研究機関との共同研究を行っています。これまでに重要施設の警備、災害発生時の対処計画等の計画策定や震災対策、国内外被災地の状況調査に従事してきました。これらの経験を活かして火力支援社では、地方議員の方を対象にした調査・アドバイザリも行っています。