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研究員の呟き

研究員の呟き

シリアの誘拐事件を受けておもうこと2014/10/10  読むための所要時間:約 5分48秒

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新興国のビジネスで中国に負け続けている、(日本政府による)てこ入れが必要であると言う主張を、しばしば耳にします。実際、例えば日本政府が政府開発援助(ODA)を供与し、さらに自衛隊部隊まで送って様々な支援を行っている南スーダンには、大規模な油田が存在しますが、欧米石油メジャーを例外とした上でも、日本企業よりも中国企業が目についています。

もちろん、武器援助や現地政府高官への便宜供与までを政府一丸となって行う中国に対して日本企業が独力で挑むことは困難でもあり、日本政府による信用保証等、後押しが必要でもあります。つまり中国に対抗しつつ、不安定な情勢にある地域で日本企業が展開することを日本政府が支援する、ということになります。

それでは我々日本社会一般には、これら不安定な地域で中国企業と伍して日本企業が活動することを可能とする環境があるのでしょうか。この観点から興味深い事件が、2014年に日本人がイスラム国に拉致されるというショッキングな形で発生してしまいました。本記事では、この事件を手掛かりに「不安定な地域で日本企業が活動する」ことについて少し考えてみたいと思います。

事件の簡潔な概要はこうです。ジャーナリスト(カメラマン)を名乗る民間軍事会社の社長の日本人が、シリアで調査活動に従事中に、自動小銃を保持した状態で、イスラム国の要員に捕捉されて拉致されました。その際の動画がyoutube等に公開されるとともに、邦人の拉致事件として日本国内で大きく注目され、当人の素性やシリア入国の状況等が大々的に報じられました。この過程では、イスラム国側に対して被害者が民間軍事会社の社長であることを暴露した民間人が批判されたり、著名人との2ショット写真が出回るなどしています。

被害者については無事を祈りつつも、そもそもの入国はもとより、武装していたこと、オンラインで経歴を公開していたことを含めて、その行動については準備不足、軽率、うかつ、といった具合に批判的に取り上げられることとなりました。

本記事ではこうした報道や個々人の行動の是非を取り上げるものではありませんが、批判された被害者の行動のポイントを整理してみると、(民間警備業としての)専門的経験を持たず、現地語及び英語にも不自由な状況で、また周りの静止を無視して入国しているといった点があります。また、現地情勢の収集・分析等を綿密に行った様子もなく、紛争地で銃を持つことの意味(撃たれても文句は言えません)や、いわゆる民間軍事会社のオペレーターと同様の服装・装備をすることによる危険性等を考えていたとも思われない点も批判されています。さらには身体的トレーニングも不足していたことまで指摘され、総じて言えばシリアのような危険地で活動する準備は何もできていなかった、ということになります。いかにも軽率であったと言わざるを得ないでしょう。

一方で、こうした地域の情勢は、流動的、不安定であるがゆえに、どれほど準備しても万全な準備とはなりません。したがってある程度は現地に行ってから判断せざるを得ないことも事実です(このために万一の備えた事前の脱出・救出計画が必要になりますが、ここでは深入りしません)。

こうしたリスクを、積極的に取って活動しているのが中国企業(人)です。実際にアフリカ諸国の内陸部や大洋州諸国の離島といった、日本や中国からは飛行機の乗り継ぎを重ねて辿り着くような辺鄙な場所であっても、中国系のこじんまりとした中華料理店や雑貨屋が大体存在しています。さらにある程度資本のある中国人が経営するホテルや建設会社、運送会社等が存在する場合も多いです。不安的な地域において日本人が活動するに当たり、常宿したり食事をとる場所がこうした中国系の店であることもよくあり、むしろこうした辺鄙な場所では、それしか選択肢がないケースも往々にしてあります。少なくとも日系のそうした施設があることは、まず期待できません。こうして不安定な地域では日本人も、中華料理屋を見ると、(味がある程度保障されており、メニューも想像つくこともあって)どこか安心して入店するようにもなります。

産油国として知られるリビアでも中国系の企業が数多く展開していたことが知られていますが、カダフィ政権が崩壊した際には、エジプト国境に数千人規模の中国系の人間が押し寄せたことが驚きと共にニュースとなりました。中国企業の資源事業を陰で支えるのは、保証もなく、身一つで現地でたくましく自身のビジネスを展開する中国人と、彼らの作り出すネットワークであるとも言えます。

現在もなお拘束中で安否不明の被害者の行動を擁護するものではありませんが、準備不足のまま飛び込むこと自体は、日本企業が不安定な地域で活動をして利益を出していくためには、批判されるべきではないのかもしれません。外国での邦人保護との兼ね合いで日本政府にとって難しい課題ではありますが、日本が不安定な地域で中国企業と伍して勝ち抜いていくために、ある意味ではこうした無謀な起業家の存在自体も、ときには必要と言えるのかもしれません。

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執筆担当:研究員A
<プロフィール>都内某大学研究所所属の研究員。国際政治研究を専門としていますが、最近はISの動向を中心にテロ情報を眺める毎日。情報を集めながら論文にはならないネタを色々とつぶやいていきます。更新は不定期なので、何か関心事を問い合わせ頂ければ次回投稿にしてみますのでお待ちしてます。

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