• トップページ
  • 事業内容
  • サービス紹介
  • 実績
  • 会社概要
  • パートナー募集

研究員の呟き

研究員の呟き

鳩山元総理の旅券返納は出来るのか?(下)2015/05/10  読むための所要時間:約 4分

150509_1

鳩山元総理の旅券返納はできるのか?(上)」の続きです。

4.「国益・公安条項」の合憲性

さて、次の問題は「国益・公安条項」の合憲性です。この点については、最高裁の判決はいずれも合憲と指摘しております。代表的な帆足計事件の最高裁を元に説明します。
この際の最高裁判決は、要するに、帆足らのモスクワや北京での国際会議参加は、日本の国益と安全を害する恐れがあるとの決定は違法ではないとした上で、「個人の資格であり、旅券発給によって政府が旅行目的を支援することにはならないし、政治的責任を政府が負う事もない」という帆足らの主張を一蹴しています。
その心は、たとえ個人としての参加であっても、その参加が国際関係に影響を与えるものであるというものです。
なお、裁判長と裁判官一名は、補足意見として、他の裁判官らは賛成しなかったが、憲法二二条二項の、「外国に移住する自由」とは、外国への旅行の自由を含まず、あくまでも外国絵の移住と国籍離脱にのみあてはまると主張しています。

参考までに関係する部分を最高裁判決から抜き出して、ご紹介しましょう。

「上告人等(※帆足ら)がモスコー国際経済会議に参加することは、著しくかつ直接に日本国の利益又は公安を害する虞れがあるものと判断して、旅券の発給を拒否した外務大臣の処分は、これを違法ということはできない」

「なお所論中、会議参加は個人の資格で、しかも旅券の発給は単なる公証行為に過ぎず、政府がそのことによつて旅行目的を支持支援するものではなく、かつ政治的責任を負うものではないから、 日本国の利益公安を害することはあり得ない旨るる主張するところあるが、たとえ個人の資格において参加するものであつても、当時その参加が国際関係に影響を及 ぼす虞れのあるものであつたことは原判決の趣旨とするところであつて、その判断 も正当である。」

なお、裁判長の田中耕太郎、裁判官の下飯坂潤夫両名の補足意見は以下になります
「(裁判官全員の)多数意見は憲法二二条二項の、「外国に移住する自由」の中に外国へ一時旅行する自由をも含むものと解している。しかし、この解釈には承服できない。この条項 が規定しているのは外国に移住することと国籍を離脱することの自由である。それ は国家と法的に絶縁するか、または相当長期にわたつて国をはなれ外国に永住する というような、その個人や国家にとつて重大な事柄に関係している。移住は所在をかえる点では一時的に国をはなれて旅行することと同じであるが、事柄のもつている意味は大にちがつているのである。」

5.まとめ
これらのことから、鳩山元総理の旅券は旅券法の規定するところの「国益・公安条項」で政府が決断すれば客観的な情勢にかんがみて十分可能でありますし、裁判所としては過去の判例からも国際情勢などの判断は政府にある等の理由から正当としていることから、鳩山総理側が訴訟しても勝ち目はないと思われます。
なお、繰り返しになりますが、本稿は法的な意味での技術的可能性を論じる物であって、鳩山元総理の旅券返納を主張する内容ではありません。あくまでも、それが法的に可能か、可能であるならばどのような展開が予想されるかを論じるものです。

参考文献
外務省領事移住部旅券課「旅券法概要」外務省、1997年
旅券法研究会「逐条解説旅券法」大蔵省印刷局、1999年
国会議事録
旅券法
---------------------------------
執筆担当:研究員C
<プロフィール>都内某研究機関の研究員。安全保障研究を専門にやっています。過去には国際協力や防災等をテーマとする官庁からの委託調査も実施いたしました。最近は、混迷を深める国際情勢を眺めていることもあり、いろいろと呟いていきます。

Social フェイスブック

Archive 実績紹介

C.W.ニコル・アファンの森財団様

公式ウェブサイト

一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団様 公式ウェブサイト
他の実績をみる