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研究員の呟き

研究員の呟き

鳩山元総理の旅券返納は出来るのか?(上)2015/05/10  読むための所要時間:約 5分36秒



1.はじめに
鳩山元総理のクリミア訪問と前後して、旅券没収が議論されています。しかし、実はこの問題は古くから、特に冷戦初期から中期にかけて繰り返されてきた問題でもあるのです。
以下では、最初に結論を概略的に述べ、次いで関係する条項を解説し、最後に最高裁判例を元にその合憲性を説明します。
なお、本稿は法的な意味での技術的可能性を論じる物であって、鳩山元総理の旅券返納を主張する内容ではありません。あくまでも、それが法的に可能か、可能であるならばどのような展開が予想されるかを論じるものです。

2.結論
結論から言えば、鳩山元総理については旅券法第十三条第一項第七号の「国家の利害と公安」を損なう行動による旅券の返納命令もしくは発給拒否が出来ます。過去の同様に朝鮮戦争中にソ連を訪問した元政治家等、この条文を適用して旅券の発給拒否をした例はいくつかあり、それについての裁判では合憲判決が出ています。
ただし、あくまでも出来るのは返納命令と発給拒否で、いきなり没収はできないようです。没収は、旅券法第二十五条にあるように、返納を命令されたにもかかわらず、期限内に返納しなかった場合に可能となります。
実施する場合は、旅券法第十三条第一項第七号に該当するという事で、第十九条第一項に基づき、まずは返納命令を行うところからになります。
また、鳩山元総理の旅券の期限切れが近づいていれば、旅券法第十三条に基づき、新たな旅券の発給を拒否できます。
過去の代表的な判例は、帆足計事件です。1952年3月、朝鮮戦争中にもかかわらず、元参議院議員の帆足計はモスクワや北京での国際会議に参加するべく旅券申請を行いましたが、外務大臣はこれを拒否し、帆足は旅券法の規定が憲法違反と訴訟したものの最高裁で全裁判官が一致して合憲とされた件です。
また、他の判例では、昭和28年の中華人民共和国の国慶節への参加をしようとした代表団への旅券発給拒否など同様のケースがいくつかあります。1965年8月に佐藤内閣が、日中青年大交歓会へ出席の192名の代表に旅券発給を拒否した事例もあります。

3.関係する条項
(1)「国益・公安条項」
第十三条
第一項
第七号
前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
第二項
外務大臣は、前項第七号の認定をしようとするときは、あらかじめ法務大臣と協議しなければならない。
解説
この条項は、いわゆる「国益・公安条項」と言われるものです。1952年3月、ソ連に渡航しようと旅券申請をした帆足元参議院議員に対し、外務大臣が旅券法第十三条第一項第七号(当時は5号)の「著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがある」として、旅券発給を拒否しました。
それに対し、帆足は憲法二二条二項の「外国に移住する自由」に違反するとして処分取り消しを求めて訴訟を起こしました。1958年、最高裁はこれを却下し、合憲としました。この内容は(下)で解説しますが、このように「国益・公安条項」は鳩山元総理に適用可能なのです。
では、返納の手続きを見ていきましょう。

3.関係する条項
(2)「返納の手続き、罰則」
第十九条  外務大臣又は領事官は、次に掲げる場合において、旅券を返納させる必要があると認めるときは、旅券の名義人に対して、期限を付けて、旅券の返納を命ずることができる。
第一項一号
一般旅券の名義人が第十三条第一項各号のいずれかに該当する者であることが、当該一般旅券の交付の後に判明した場合
第二項
一般旅券の名義人が、当該一般旅券の交付の後に、第十三条第一項各号のいずれかに該当するに至つた場合
第四項
外務大臣又は領事官は、第一項の規定に基づき一般旅券の返納を命ずることを決定したときは、速やかに、理由を付した書面をもつて当該一般旅券の名義人にその旨を通知しなければならない。
(3)「罰則について」
第二十三条  次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第六項  第十九条第一項の規定により旅券の返納を命ぜられた場合において、同項に規定する期限内にこれを返納しなかつた者
(4)没収についての条文内容
第二十五条  第二十三条の罪(第一項第一号の未遂罪を除く。)を犯した者の旅券若しくは渡航書又は旅券若しくは渡航書として偽造された文書は、外務大臣が没取することができる。
(5)まとめ
鳩山元総理の旅券は没収できますが、このように出来るのは、返納命令と発給拒否で、いきなり没収はできないようです。没収は、上記旅券法第二十五条にあるように、返納を命令されたにもかかわらず、期限内に返納しなかった場合に可能となります。

鳩山元総理の旅券返納は出来るのか?(下)」に続く
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執筆担当:研究員C
<プロフィール>都内某研究機関の研究員。安全保障研究を専門にやっています。過去には国際協力や防災等をテーマとする官庁からの委託調査も実施いたしました。最近は、混迷を深める国際情勢を眺めていることもあり、いろいろと呟いていきます。

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