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研究員の呟き

研究員の呟き

仙台防災枠組みとこれからの国際防災2015/05/10  読むための所要時間:約 6分54秒

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3月4月と多忙で、少し間が空いてしまいました。他の研究員の方も手一杯のご様子で、研究員ブログの更新が2ヶ月も空いてしまいました。
今回は、多忙の原因の1つ(言い訳をさせて下さい)でもあった、宮城県仙台市で開催された第3回国連世界防災会議について、取り上げたいと思います。

ニュースでも頻繁に報道されておりましたが、2015年3月14日から18日にかけて、3回目となる国連世界防災会議が開催されました。国際的な防災の取り組みの枠組みを議論するこの国際会議で採択された宣言文が、「災害リスク低減に向けた仙台枠組み:2015-2030(仙台防災枠組み)」です。この宣言文は、2030年までの国際的な防災の取り組みの指針となります。

開催地に選ばれたのが東日本大震災の被災地である仙台市ということにも表れているように、国連世界防災世界会議は、東日本大震災を踏まえたものとなっています。ちなみにこれまでの枠組みとなってきた「兵庫行動枠組み」は、近代的な大規模都市が直下型の地震災害に見舞われた初のケースであった阪神淡路大震災を踏まえて神戸市で開催された第二回国連世界防災会議で作成されたものでした。つまり、災害大国日本は防災の先進国であるとともに、被災の先進的地域でもあり、皮肉な表現をすれば先進的な被災経験を有してきたということです。
実際に日本政府も主導権をとって国際防災に取り組んできたことで、横浜→神戸→仙台と、常に日本の都市名が冠された宣言となってきました(もちろん積極的に資金提供をしているという現実的な側面もあるのですけれども)。

さて、仙台防災枠組みでは、リスクを特定して、そこへ対策を講じることがファースト・プライオリティとして提示されました。これは、脆弱性やウィークポイントを調査によって明らかにすることを求めています。

これは当たり前のことではないかと思われるかもしれませんが、脆弱な部分に目を向けるようにしたことは、とても重要な意味があります。東日本大震災の際に「想定外」や「想定を超えた災害」ということがしきりに言われたことはご記憶と思います。「想定」という言葉は、我々のような防災分野の人間にとっては、「どういう災害が起きることを想定するか」といういわゆる災害想定を想起させます。この「想定」は、例えば地震ならどこでどのくらいの規模のものがどの程度の頻度で発生するのかというものをもとに、次に被害「想定」が検討され、それらが最終的に、防災計画としてまとめられて住民の方々にはハザードマップのような目に見える形で出されていくことになります。

このために我々は懸命に「想定」を続けてきたのですが、しかしながら東日本大震災では「想定外」が起きてしまったわけです。防災先進国の日本の中でも、とりわけ津波対策を徹底して進めていた自治体が津波被害を防げなかったという想定外を考慮して、被災することを前提に、その際に最も弱い箇所を特定して、それでも持ちこたえられるように対策を講じようという様に、防災の思想が少し変わったということです。

この背景となって取り組みを支えているのが、昨今の国際的な防災業界で流行りとなってきたレジリエンスという概念です。少し読む時間が増えてしまうかもしれないのですが、以下のリンクにある世界防災会議の広報動画を見て頂くと、議論されていた内容におけるレジリエンスの重要性がご理解頂けるかと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=u0kv8vHtQq0

ところで、レジリエンスというカタカナ用語は、だいたい「災害に見舞われたシステムや社会が、効果的な方法で被災に抵抗し、受けた被害を自らのシステム内に受容して適応していく回復力」のような意味です。

元々は工学分野で使われることの多い概念です。例えば飛行機に乗られる方は、飛行中に羽がゆらゆらと揺れているのを目にされたことがあるかもしれません。地震の際には、家がゆらゆらと揺れるのを誰でも感じられると思います。これらは揺れるように設計されているのですが、その目的は、自ら揺れることで衝撃を吸収させることがあります。「柳の様なしなやかさ」という表現がありますが、柳はしなやかであることで折れにくいことを指した言葉です。ああいったしなやかな強靭さによる回復力というイメージが、レジリエンスのイメージとして最も理解しやすいと思います。

話を戻しますと、レジリエンスとは、一定のショックを受ける(被災する)ことを前提に、その衝撃をしなやかに受け流せるように対策を講じて行くということになります。津波で言えば、15mを越えるような巨大な防潮堤を建設したりするのではなく(それが不要だとか、もう作られることはないとか、そういうことは意味しません)、予防措置を行いつつも津波が上陸することを前提に、その際にその地域の人々が生き延びて、そして復旧・復興を成し遂げて行けるように準備を進めるということになります。

このためには、まずは人が亡くならないことが何よりも大切になります。それから、コミュニティの機能を維持して、東日本大震災のように被災住民がバラバラになってしまったり、大量のがれき処理で揉めて、対応が遅れてしまうことで復興が難しくなったりしないようにすることも求められます。

同時に回復力という側面から、津波のみならず、地震や台風、或いはその他にも感染症など、様々な災害が襲ってきた際に、その被害を受けつつも回復することを可能とするような措置を考えるということになります。

いずれにしても、このレジリエンスという概念を背景にした仙台防災枠組みは、これからの防災を考える上でまさに指針を提供するものです。未だに、防災というと、耐震化などのハード面が進められ易いのですが、それはそれとして必要だけれども、そうではない、被災した人々やコミュニティ、社会のしなやかな強靭さという中々計測しづらいものを軸に据えることがこれから益々重要になっていきます

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執筆担当:研究員B
<プロフィール>危機管理を専門とするコンサルタントとして、民間企業に対するアドバイザリーやコンサルティングを手掛ける傍ら、官公庁の委託調査や研究機関との共同研究を行っています。これまでに重要施設の警備、災害発生時の対処計画等の計画策定や震災対策、国内外被災地の状況調査に従事してきました。これらの経験を活かして火力支援社では、地方議員の方を対象にした調査・アドバイザリも行っています。

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