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研究員の呟き

研究員の呟き

シャルリーエブド紙襲撃事件を受けて2015/01/14  読むための所要時間:約 4分59秒

france

衝撃的な事件が起きて数日、3連休中にこれを書いている。
日本国内の議論の主流は、テロリストへの批判を行いつつ、その後のフランスやヨーロッパ諸国でのシャルリーエブドへの共感デモ等の盛り上がりを受けて、「そもそも抑圧された移民や差別されたイスラムの状況」に言及して冷やかな視線を浴びせる、といった感じだろうか。いずれにしても概ね他人事という点では共通点があろう。

事件の前提となった風刺画については、「あの風刺画はやりすぎ」といったように、風刺記者側への批判を示すものが多いようである。模範解答としてはそうだろう。筆者も感覚としてはこれに近いものがあることは否めない。
社会風刺にも程度があり、誰かを傷つけることを「言論の自由」と言うのは傲慢でしかないという訳だ。

なるほど彼らの風刺は、確かにイスラム教徒を傷つけ、不快にさせるものであったのは事実だろう。見方によっては、彼らはイスラム教徒ないしイスラム教を攻撃したとも言える。

しかし、それは許容されないことなのだろうか?そもそも社会風刺とは、風刺される対象からすれば面白いものであるはずがない。つまり、風刺の受け手からすれば、それは攻撃の対象になっていると自己規定せざるを得ないものである。

したがって問題になるのは、許容される攻撃とはどういうものなのか?ということだ。
誤解のないように書いておくが、これは風刺のどぎつさの「程度」の話ではない。言うなれば、どういう原則に基づいた風刺であれば、許容されるのかということだ。

これについて風刺画作者を擁護する側や襲撃前に作者ら自身は、「カトリックからイスラムまで、区別なく対象としている」ことを述べ、その正当性を主張している。
言い換えれば、中立に、そして公平に風刺しているのでイスラムへの攻撃、排斥ではないということだ。

この「中立・公平という原則」について、日本人にもなじみ深いテーマである国連PKOに関して、国際社会には面白い考え方があるので紹介したい。

国際連合が平和維持活動(PKO)として各国の供出した軍隊を展開していることはよく知られている。この国連PKOの原則の1つが不偏性であり、俗に言うところの「中立・公平」を指す。つまり国連PKOと指揮下の部隊は、紛争を行っている勢力いずれにも肩入れせず、中立の立場を保つ、ということである。

この原則は、かつては字義通りに「国連PKOは中立の立場を維持する」ものとされていた。しかし、維持すべき平和がそもそもないような内戦の悲惨な現状などを踏まえて、「PKOの任務遂行のために公平に(抑制的に)武力行使を行う」ものへと内容が変化してきた。
平和のために努めるPKOの任務に照らして、いずれかの勢力が公平でない場合、つまり一方的に敵対勢力に攻撃を仕掛けていたり、国連職員等を襲ったり、武装解除に応じなかったりした場合、限定的な攻撃が許容されているのである。
中立の原則に立ち、任務のために公平に攻撃を行うということが、世界の紛争に最前線で対処してきた国連PKOの現在の姿である。

もちろん、攻撃された側からすれば、公平な攻撃とは自勢力側の死傷者も伴う武力行使を受けることであり、したがって国連PKOを憎悪せざるを得ないということになる。
しかしそれでも、単なる中立では紛争、虐殺から人々を守れないという現実認識に立ち、国際社会が原則を壊さないぎりぎりの選択として作り上げてきた規範である。

このことを踏まえて考えた時、シャルリーエブド紙の記者の攻撃的・挑発的行動について、参考となる視点が開けよう。つまり、彼らと、そしてフランス社会の規定していたシャルリーエブドの任務とは何なのか?ということであり、それを満たしているのであれば攻撃は許容されざるを得ないということへの人々の心情的共感である。

おそらくこの視点抜きに、フランスやヨーロッパ諸国で盛り上がるシャルリーエブドへの共感現象のようなものを理解することはできないだろう。つまりあの風刺画は、イスラムへの攻撃ではあるが、それは許容されるべき公平な攻撃であるということへの共感である。

そしてこの公平性への理解抜きには、「表現の自由の程度」のような明確な答えのないものに、問題は矮小化されてしまうと思われる。

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執筆担当:研究員A
<プロフィール>都内某大学研究所所属の研究員。国際政治研究を専門としていますが、最近はISの動向を中心にテロ情報を眺める毎日。情報を集めながら論文にはならないネタを色々とつぶやいていきます。更新は不定期なので、何か関心事を問い合わせ頂ければ次回投稿にしてみますのでお待ちしてます。

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