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研究員の呟き

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地方自治はなぜ進まないのか ―ユッケ食中毒事件(2011)を思い出しつつ―2014/11/26  読むための所要時間:約 4分16秒

ユッケ

2012年、いわゆる地方自治拡大を掲げる改革派の政治家たちを厳しく批判した『暴走する地方政治』(田村秀著 ちくま新書)と題する新書が出版され、注目を集めました。地方自治の拡大が言われるようになって久しい今日ですが、この関連で筆者の脳裏に鮮明に焼き付いている事件が、2011年のユッケ食中毒事件です。
一見すると無関係に見えるこの事件は、以前書いた危機管理広報としても非常に興味深い事件であると同時に、地方自治の観点からも考えさせられる事件でした。

既に事件から3年が経過しておりますので、少し詳細に事件を整理しつつ、その点を振り返ってみたいと思います。(なお、事件の概要は主に厚生労働省資料「飲食チェーン店での腸管出血性大腸菌食中毒の発生について」に拠ります)

事件の発端は、2011年4月に富山県に基盤を置き、首都圏にも展開する焼き肉チェーン店で飲食した客に食中毒症状が疑われたことに始まります。調査の結果、大腸菌O111及びO157であることが判明するとともに、同焼き肉チェーン店の複数の店舗で飲食した客に同様の食中毒症状がみられることが発覚し、広域食中毒事件へと発展しました。その際には子供を含めた死者まで発生したことで一気に茶の間の注目を集めることともなりました。

その後、食中毒の原因が同チェーンの提供していた「和牛ユッケ」にあることも判明し、営業停止処分がなされる中で、当該焼き肉チェーン店社長による記者会見が行われることとなりました。冒頭述べましたように、この記者会見が危機管理広報の失敗例としての見本にもなります。印象的な記者会見でもあったために御記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、社長が「不法なことはやっていません!生食用の肉の基準というものはありません!」と絶叫する姿は、「逆ギレ記者会見」として有名になりました。

ここに至って、当該企業の甘い衛生管理基準と社長個人の強烈なインパクトを残したキャラクターとは別に、肉の生食の基準という新たな要素が事件でクローズアップされるようになります。同時に、社長の発言にあった「行政の基準がない」ことが抜け穴として指摘されることにもなりました。この時自治体の担当者は記者会見で、「生食用に定められた国の基準はない」ことを強調してもいます。保健所の担当者が責任逃れで主張したものと言えるかもしれませんが、結果的に厚生労働省は対応を余儀なくされることとなりました。ちなみに同年11月には、厚生労働省は肉の生食に関する新たな基準を策定して公表しています。

当時、地方自治の拡大として権限の委譲を主張しておきながら、いざ事件が発生した際には国の基準の欠如として報道されてしまう点に、違和感と共に地方自治の拡大の言説の限界を感じたものでした。
一連の経緯は、中央省庁(霞が関)の官僚や国会議員から見た時、なぜ地方に権限を委譲できないかの1つの要因が端的に表れているようにも思います。人々の暮らしに身近で、また食べる機会もそれほど一般的ではない生食用の肉という存在1つでさえ、結局のところ中央省庁にその責任を帰し、自治体自らは責任逃れをした事例にも映ってしまう、ということです。

事件から既に3年が経過していますが、地方自治を考える際のポイントとして、中央省庁のこうした視点を理解する必要があるのではないか、またその意味では、この事件を含め過去の自治体の対応を改めて振り返ってみることも1つのアイデアとしてあるのではと考える次第です。

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執筆担当:研究員B
<プロフィール>危機管理を専門とするコンサルタントとして、民間企業に対するアドバイザリーやコンサルティングを手掛ける傍ら、官公庁の委託調査や研究機関との共同研究を行っています。これまでに重要施設の警備、災害発生時の対処計画等の計画策定や震災対策、国内外被災地の状況調査に従事してきました。これらの経験を活かして火力支援社では、地方議員の方を対象にした調査・アドバイザリも行っています。

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