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研究員の呟き

研究員の呟き

自己責任論と防災2015/02/09  読むための所要時間:約 3分50秒

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イスラム国に日本人の方2名が殺害された事件を受けて、自己責任論を巡る議論が盛り上がっています。

自己責任に近い考え方に、防災では東日本大震災で有名になった「津波てんでんこ」という考え方があります。これは、もし地震が発生したら、家族や友人の安全やそういうものは気にしないで、てんでばらばらに安全な場所まで逃げなさいという心構えです。

私は東日本大震災が起きる前から被災地を防災調査で訪問させて頂きましたが、この考え方はごく自然に受け入れられていました。この考え方で有名なのは、東日本大震災の際に校舎が完全に津波に呑まれたにもかかわらず、生徒や教職員の大多数が自主的に避難して無事だったことから「釜石の奇跡」と呼ばれる岩手県釜石市の小中学校での出来事があります。

長年の防災教育を通じて「津波てんでんこ」の考え方が定着していた生徒たちが、防災計画や大人の指示を待たずに自主的に避難したことが「奇跡」につながったと言われています。しかし本当は、中学生を中心に、多くの高齢者や低年齢の子供たちを助けながらの避難でした。また、釜石の奇跡の中でも、お年寄りを助けに行こうとして命を落とした中学生もいます。

「津波てんでんこ」の考え方の基本には、もちろん自分の身は自分で守るしかない」という考え方があります。しかし、それは一見するとそう見えてしまう「自分の身を守ることだけを考えてとにかく逃げなさい」という教えではありません。本当は、「津波が数分以内に襲ってきて、堤防を越える可能性もあるということまでを踏まえて、自分で考えて行動しなさい」ということだと考えています。

盲目的に安全を信じるのでもなく、誰かの指示を待つのでもなく、自分で判断して行動できるようにする心構え、それが「津波てんでんこ」という考え方であり、避難するのも救助に行くのも、すべて自己の判断でやりなさいという教えです。つまり、自己責任です。

数百年に一度のような大規模災害に見舞われることはもちろん、地震災害、台風災害、火山災害と災害大国に住み、人間の力ではどうにもならないものに向かい合ってきた日本人にとって、自己責任とはそういうものではないかと思います。

日本人の自己責任観をこのように考えると、イスラム国に誘拐された人質の方々が殺されてしまった後にも日本社会で一定の支持を得て広がっている自己責任論を考える1つの視点が得られるかもしれません。

もちろん、国の義務は国民を守ることではあるけれども、日本政府の手の届かない紛争地での活動で誘拐されたりした場合は、日本政府がどうにかできるものではない自然災害と同じで、どうにもできないのだから最後は自己責任、ということではないでしょうか。

批判を恐れずに言えば、私は自己責任論が蔓延する日本社会は、日本人が冷たい国民だからということとは思いません。人間の力ではどうにもならない現実に向き合ってきた日本の歴史がもたらすもので、仕方がないものとして被害を受け入れては復興を繰り返してきた日本社会の強靭さの表れだと考えています。


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執筆担当:研究員B<プロフィール>危機管理を専門とするコンサルタントとして、民間企業に対するアドバイザリーやコンサルティングを手掛ける傍ら、官公庁の委託調査や研究機関との共同研究を行っています。これまでに重要施設の警備、災害発生時の対処計画等の計画策定や震災対策、国内外被災地の状況調査に従事してきました。これらの経験を活かして火力支援社では、地方議員の方を対象にした調査・アドバイザリも行っています。

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