2.課題
さて、
私戦予備及び陰謀罪に関する課題(上)では、大コンメンタールの内容を基にした法解釈の紹介をしましたが、こうした内容ではどのような問題が出てくるのでしょうか。
まずは現行の規定での欠陥を述べましょう。
問題の第一は、実行の規定がないために、
私戦の実行を完了した人間を裁けないことです。勿論、すでに述べたように殺人罪など適用できるとの説もありますが、外国、それも紛争地域で実施している以上、捜査も検証も訴追も難しいのではないかと思われます。
第二の問題は、
外国でない組織、一部地方は対象外とされていることです。これでは、例えばヌスラ戦線に参加して、イスラム国打倒を行おうとした人間を逮捕は難しいでしょう。しかし、近年の紛争はほとんど外国でない組織や一部地方が関与しているのが実態であり、この問題の解決は急ぐべきでしょう。
第三の問題は、
日本国内で行われる予備・陰謀のみを処罰対象としていることです。これでは、外国で日本人が予備・陰謀を実施した場合は取り締まることができません。
第四は、
テロの称賛及び推奨を禁止できないということです。イスラム法学者なり宗教指導者が聖戦を主張したとしても、これを取り締まるのはなかなか難しいのではないでしょうか。
第五は、
テロ訓練を防げないということです。この点について、関西大学の永田憲史准教授は、「「私戦」と評価できるような場合は、私戦予備・陰謀罪で処罰できますが、テロリストとしての訓練を受けに行く(行った)場合にはこの犯罪で処罰できそうにありません。立法が必要ではないでしょうか」とtwitterでコメントしています。まさにその通りで、テロ訓練を受講しただけでは取り締まりが難しい点はなんらかの対策が求められるのではないでしょうか。
第六は、
義勇兵を抑圧することになるのではないかということです。これまで多くの日本人が海外の紛争地域に参加してきましたが、そうした存在は世界の各組織と日本の貴重な情報とコミュニケーションのパイプラインとも言えるでしょう。今回の件で、こうした参加者の出現を「一律に」抑制することが本当に良いことなのか議論の余地があると言えるでしょう。勿論、テロ組織への参加は禁止するべきでしょう。しかし、例えばオランダ検察庁が自国の暴走族集団のクルド部隊への参加について、テロ組織ではないとして容認する判断を下したように、テロ組織以外であり日本の政策に合致するのであれば、限定的に許容するべきなのではないでしょうか。法人が拉致された際にもパイプとして役立つでしょう。
3.今後の在り方
では、今後はどうすればよいのでしょうか。ここでは、テロリストを対象とする豪州の反テロ法案のような法律の必要性を論じたいと思います。
10月現在、豪州議会で審議中の反テロ法案とは、外国で戦闘行為に参加すること、正当な理由なしにテロ活動に関与していると見なされる特定地域に旅行すること、「テロ活動」指定地域を訪れた人間に対してテロ活動に関与していないことを証明する立証責任を課すこと、テロ行為を称賛予備奨励した場合は処罰することが盛り込まれた内容となっております。
勿論、上記や他に含まれる内容から人権上の問題点が指摘されておりますが、こうした問題意識を持つことは重要ですし、何かしらの形で、特定のテロ組織を対象とした新法なり法改正が必要とされているのではないでしょうか。
何故ならば、9月24日、国連安保理の首脳級会合は、国連憲章第7章に基づき、テロ活動を行うために外国に渡航する自国民を処罰する法整備を加盟国に義務づける決議第2178号を全会一致で採択しましたが、実は日本も提案国の一員として発議しています。
この決議は、テロ行為を目的とした勧誘、組織化、移動などを防止し、テロリストやその支援者を罰するための国内法の整備を各国に求めている。またテロリストの移動を察知するため、航空会社からの搭乗者情報の提供、旅行者情報の収集分析などを行うことも求めています。
つまり、テロ組織及びその訓練への参加、その支援者を罰するのは国際的な公約なのです。積極平和主義を掲げるわが国としては、すみやかな対処が急がれるところではないでしょうか。
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執筆担当:研究員C
<プロフィール>都内某研究機関の研究員。安全保障研究を専門にやっています。過去には国際協力や防災等をテーマとする官庁からの委託調査も実施いたしました。最近は、混迷を深める国際情勢を眺めていることもあり、いろいろと呟いていきます。